現地リポート

2005.08.01ジェンダー問題に揺れるイエメン共和国

国名 : イエメン 基礎教育開発伝略(BEDS)実施に関するキャパシティビルディングプログラム 第二次事前評価調査
女子教育/ジェンダー配慮専門家 野々口敦子
世界遺産にも指定されているタイズ市の街並み

世界遺産にも指定されているタイズ市の街並み

2004年12月から2005年3月までの約3ヶ月間、アラビア半島西南端に位置するイエメン共和国に滞在しました。主な目的は、女子教育改善の案件形成調査において、対象地域(タイズ州)の女子教育の現状を把握し、女子が就学しにくい要因とその改善策の分析を行うことでした。今回は、イエメンの国事情、特に女子教育や女性の置かれた状況を紹介したいと思います。

イエメン共和国は、紅海とアラビア海に面し、国土の西半分には3,000メートル級の山岳地帯、東半分には砂漠が広がるという変化に富んだ地形が特徴的です。人口は2,300万人強(2003年)、アラブ人から構成されるイスラム教国家です。その昔「幸福のアラビア」と呼ばれシバの女王が有名なシバ王国は栄華を誇りましたが、現在はアラブの最貧国に位置付けられています。人口の41.7%が食糧や生活用品に窮するいわゆる貧困層で、その83%が農村部に集中しています。これには、1990年5月の南北統一後も続いた内戦や1990年の第2次湾岸戦争後の出稼ぎ労働者の強制帰還、外国からの経済支援中止が影響したと言われています。1995年に世銀とIMFによる構造調整政策が導入されインフレはある程度解消されたものの、貧困層への負担はむしろ増えたようです。政府は貧困削減、社会経済開発の国家政策の柱に人材育成(教育)を掲げ、政府および主要ドナー(世界銀行、Gtz、オランダ、DFID、 UNICEF、WFP等)が教育改善に取り組んできたことが今回の案件形成の背景にありました。
各地域の授業風景。上から都市部、沿岸部、農村部の各教室

rep010022003年のイエメンの国全体の非識字率は47%(女性67.1%)、基礎教育の就学率は67%(女子53.7%)と深刻な状況です。EFA(万人のための教育)やミレニアム開発目標が掲げる「2015年までの基礎教育完全就学」や「2015年までに全ての段階での男女格差是正」は遠い目標です。対象地域であるタイズ州は、首都サナアに続くイエメン 第2の都市タイズ市があり、ここ数年現代都市へと変貌を遂げつつある一方で、国の貧困人口の半数を抱える州でもあります。他の州と比較して女子の就学率は高いと考えられていますが、都市部と農村部との男女格差が著しいのが特徴です。タイズ市内には共学校のほかに女子校も整備されているので、各学年の男女の生徒数は女子生徒数の方が多いくらいです。rep01003 ところが、農村部や紅海沿岸部の保守的な地域では、1年生時男子生徒の7割強だった女子生徒の割合は9年生時には5割から3割に減少します。この要因は、学校が遠い(ない)という物理的な問題のほかに、男女共学への抵抗、男性教員への抵抗(女性教員が極端に少ない)、貧困により息子を優先して学校に行かせる、水汲みなどの手伝い、早期婚、等があげられます。伝統的なイスラム国では結婚前の女子・女性が男子・男性と接触することをタブー視するようです。そして、苦労して教育を受けさせても就職口がないという厳しい現実が、「女の子に教育は必要ない」という考えを助長する悪循環です。

各地域の授業風景。上から都市部、沿岸部、農村部の各教室

各地域の授業風景。上から都市部、沿岸部、農村部の各教室

イエメンの憲法では男女平等が保障され、イスラム教典でも女性は男性の平等なパートナーとして謳われているようです。しかし、現実は、あらゆる面で男女の格差が顕著です。また、伝統的価値観により、多くの女性の行動範囲は家庭やその近所に限られています。同様に、男女の役割分担が明確であり、男性が社会・経済活動を担っている反面、女性には家庭において家事や育児を行うことが強く期待されています。国家の貧困削減戦略や教育政策には、女子教育の促進、特に女子の就学率向上が優先課題として掲げられています。しかし、「なぜ女

遠隔地の青空教室

遠隔地の青空教室

子教育を促進するのか」、という根本的な理由付けが弱い印象です。基本的人権や公正さ、またEFA等の目標ありきの観点からだけではなく、むしろ、女子・女性が教育により何を得て、国家は彼女らに何を期待するかを明らかにするべきでしょう。男女が教育を通して相互の理解を深め、社会の一員としてパートナーシップを築き、社会・経済開発の責任を分担し合うことによって、女性の地位は向上するのだと思います。小手先だけの就学率の向上は持続可能性がなく、ジェンダー主流化政策の中で取り組まれることが期待されます。