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2006.08.25

『 北 京 』

中国経済法・企業法整備プロジェクト

業務調整員 / 三沢 健直

北京は、想像していたより、はるかに豊かだった。高層ビルが立ち並び、きらびやかなショッピングセンターにはブランドの店がずっと続いている。人々の立居振る舞いにも、衣食住が足りている人の余裕が感じられる、途上国で感じるようなぴりぴりした感じはまるでない。広い大通りと大きな建築物がつくる空間のバランスは、アジアというより、はるかにヨーロッパに似ている。

中国の友人にそう話すと、「地方に行くと別の驚きがあるよ」という。おそらく、北京と地方とでは、これも想像できないような格差があるのだ。年収1000万円以上の人の数では、既に日本を越えたと言われる一方で、一日の生活費が1ドル以下の貧困層が何億人もいるとも言われている。途上国と先進国が同じ国の中にある。北京の建設ラッシュは、かつての日本と同様に、地方からの出稼ぎ労働者によって支えられている。日本で低賃金労働をする中国人たちが、小さなアパートに何人も暮らしている映像をテレビでみることがあるが、実は中国でも彼らは同じような生活をしているのだった。会社が寮として借りたアパートの一室で共同生活をする若い人々は、週末にはクラブ(ディスコ)に行って踊ったりする。北京のクラブ(ディスコ)は、結構盛り上がっているのだが、ここもまたヨーロッパの場末のディスコを髣髴とさせる雰囲気がある。

最初に訪れる以前は、中国に何となく怖いイメージを持っていた。それは多分、人口も国土も圧倒的に大きな国でありながら、そこに住む人々についての知識がまるで乏しく、且つ表面的だったからだ。初めて北京を訪れたのは、2005年5月、ちょうどいわゆる反日デモについての映像がメディアで繰返し流された直後だったが、北京では、まるでそんなことがあったなどと想像もできなかった。人々は友好的で、ゆったりとした空気が流れており、メディアの作るイメージと実際との乖離を実感した。人通りの多い場所でも、日本語を話していても何の不安を感じることもなかった。今年もまた、ちょうど8月15日に、昨年5月から数えて通算7度目の訪中をしたが、いつもと変わらなかった。

中国では、急速に発展する市場経済に対応する法律の整備が追いついていないために、その整備が急務になっており、民商法の様々な分野での法律制定・改正の作業が、急速に進められている。私の参加している経済法・企業法整備プロジェクトでは、約10年前に制定された会社法の改正、まだ制定されていない独禁法の立法、市場流通関連の法律の整備の三つの分野での研究協力を行っている。文化の差を感じて面白いのは、市場流通関連の分野での研究協力である。例えばフランチャイズチェーンを規制する法律や、小売業者と小売業者の取引を規制する法律、ファイナンスリースを規制する法律の立法などを中国政府が進めており、立法作業の参考にするために日本に協力を打診するのだが、多くの場合に日本に当該法規が存在しないために、協力することが難しいのである。流通に関する規定は、日本では行政が定めるガイドラインや、事業団体の会則など民間による自主規制によって定められていることが多いのだ。日本が独自の道を歩んできたのと同じように、おそらくは中国も独自の道を歩まざるを得ないのだと思う。 

このタイミングで中国との付き合いが始まったのは何かの縁であるだろうし、今後もできれば、縁を深めて行きたいと思う。

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